FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ぼくの天女をつかまえろ 第4話

ぼくの天女をつかまえろ    第4話




「だったら、大都芸能ではなく、私と個人的な契約をして下さい」

 
すぐにマヤの台詞が理解できなかった。
突拍子もなくわけの分からないことを言い出すのがマヤだ。またか、と思いつつ耳を傾ける。
「紫織さんのように美人でも名家のお嬢様でもないけれど、私、あなたのためなら何度でも舞台に立ちます。結婚相手は会社のためになる女性を選ぶのでしょ。だったら次は私を選んで下さい。……私を選んでくれるのなら、『紅天女』の上演権をあなたに譲っても構わない」
今言わなければ二度と言えないと思った。
玉砕覚悟で、秘めていた思いの全てをぶつけた後は、まるで素っ裸にされたような気分だった。
なのに、真澄は応えてくれない。
間の抜けた顔で、ぽかんと口を開けている。
視界がにじむ。
きっと大笑いされる。そう思った瞬間、真澄の指から煙草が落ちた。


真澄ははっとして、絨毯に落とすまいと慌てて手で受け止める。
火口が掌に当たり短く呻いて顔をしかめる。
結局煙草を絨毯に落としてしまった。
すぐに拾ったものの、僅かに焦げてしまう。
目を光らせた水城の顔が脳裏に浮かぶ。
「速水さん、大丈夫?」
マヤが駆け寄ってきて、真澄の手を取った。
掌のくぼみに小さいが赤くなっているところがある。
「大変。私、応急箱借りてきますから、待っていて下さい」
真澄が止める間もなくマヤは社長室を飛び出した。
一人部屋に取り残された真澄は、先ほどまでマヤが座っていた場所を見つめ、ゆっくりと彼女の台詞を一つ一つ噛締めるように思い出す。
それが夢でも妄想でもないのだと信じることができたとき、真澄は立ち上がった。
例えそれが気まぐれであろうと、戯言であると、からかいであったとしても構わない。
撤回など決して受付はしない。
一刻の猶予もない。
真澄は走った。




秘書室では、慌しくマヤが水城から応急箱と、薄手のハンカチで包んだ保冷剤を受け取っていた。
そこへ真澄が血相を変えて社長室から飛び出してきた。
「真澄様?」
「どうしたんですか?」
水城とマヤが声をそろえて怪訝な顔で問う。
その質問を無視して、真澄は保冷剤を持つマヤの手首捕まえた。
「おいで」
「え?」と、きょとんとするマヤを強引に廊下へと連れて行く。
その背に、すかさず水城が声をかける。
「どちらに、いつお戻りになられますの?」
「今日はもう戻らない。悪いが退社させてもらうよ。どうせもともと午後のスケジュールはあけてあったんだ」
廊下へと向かいながら口早に伝える。
急ぐ背中に秘書は問答無用の冷徹な声を上げた。
「社長、生憎ですが空けてあった午後には、繰り下げた会議を入れさせていただきました」
遅くとも夕方6時には帰社をお願いいたします。会議が終了次第……」
やれやれと、真澄は溜息をついて振り返る。
「もういい。わかった。戻ればいいんだろ。6時だな。時間通りに戻るから、それまでは連絡してくるなよ」
水城は微笑みを湛えて一礼する。
「承知いたしました。いってらっしゃいませ」



役員用のエレベーターは、他の階に止まることなく、地下駐車場を目指して降下する。
閉ざされた扉を凝視したままの真澄に、マヤは困惑して声を上げる。
「速水さん、一体どうしたんですか?」
「頼むから、何も言わず一緒に来てくれ」
振り向かずにそういう真澄の顔は、怖いほど真剣だった。
張り詰めた彼にそれ以上何も言えず、黙って従うことにした。
右手が冷たいことに気づき、保冷剤を持ったままだったことを思い出す。
真澄の手も、マヤの右手首を掴んだままだった。
無言で横顔を見上げたが、放してくれそうにない。
放されたいとも思わない。
右手はそのままに、真澄のやけどしたであろう手を案じる。
応急箱は置いてきてしまったが、せめて冷やすだけでも、そう思い下ろされている手を取る。
大きな手に触れた瞬間、真澄が驚いてマヤを見下ろす。
睨むような視線に、マヤは悲しくなってくる。
すぐに視線を落として彼の手に保冷剤を当てる。
「冷やすだけです。そんな顔しないでください」


暗い声でそう言う彼女を、真澄は歯がゆい思いで見下ろしていた。
今すぐ抱き締めたい。
どこへも逃げられないように縛り付けて唇を奪って……
瞬く間に妄想が広がりかけて、真澄は己を制止する。
エレベーターが地下へ到着した。
それ以上、狭い密室で二人きりでいれば、欲望を抑えきれたかどうが怪しいところだ。
大人しくついてくるマヤを、停めてある自家用車の助手席に乗せる。
シートベルトで彼女を拘束すると、すぐに運転席に自らも乗り込む。
慣れた動作で車を発進させた。




車に乗ること十数分。目的の場所へとやってくる。
車から降りたマヤは目の前の簡素な建物を眺めて首を傾げる。
「おいで」
滑り込ませるようにして手を握られる。
真澄に連れられて建物の中へと入った。
殺風景なフロアには、透明なついたてで区切られたカウンターに、用途別の受付が設けられている。
その奥には所狭しと机が並び、各々の机は書類やファイルが積み上げられている。
マヤが殺伐とした様子を眺めている間、真澄はいつの間にか彼女の手を離して、受付で何やら用紙を受け取っていた。
離れた場所に設置されているカウンターへ行く。
受け取ったばかりの用紙に記入を始めた。
マヤは彼の傍へ行き、何を書いているのかと覗き込む。
見慣れた文字は、やはり紫の薔薇に添えられたメッセージカードに記入されている文字と同一のものだった。
切なさが込み上げてくる。


真澄はジャケットの内ポケットから印鑑ケースを取り出し、中身を出して捺印を済ませる。
インクも乾かぬうちに、必要事項を埋めた用紙と万年筆をマヤの目の前に置く。
用紙の空欄に指を差す。
「ここに記入をしてくれ、君自身のことを書くだけだ。急ぐ必要はないが、間違えるなよ」
「分かりました」
促されるままに用意された万年筆を持つ。
緊張しながら真澄の氏名の横に自分の氏名と住所を記入していく。
記入している間に、真澄は印鑑を内ポケットに戻していた。
その手で、上着の別のポケットに手を入れ、小さな細長いケースを取り出す。
中を開け、納められている印鑑を取り出す。
マヤが記入を終えるとすぐに、彼女の手を取り印鑑を渡す。
「使うといい。君の手荷物は会社においてきてしまった。
それは、水城君がいつでも君と契約ができるようにと用意しておいてくれたものだ。こんなところで役に立つとは思わなかったよ」
マヤは棒状の先端に刻まれた名を確かめる。
彼女の苗字に間違いはない。
「ありがとうございます」
用意周到な彼に感心しながら、訝しむことなくマヤは素直に礼を言った。内心で彼がほくそ笑んでいるとも知らずに。


一通りの記入と捺印を済ませると、記入漏れがないかを確かめる。
右側のみに記入したマヤは、左側を見た。
証人と書かれた下に、水城と聖の名前を見つけた。二人の氏名の後には、それぞれに捺印もされている。
もらったばかりの用紙に、なぜ他人の印鑑が押されているのだろう、と疑問を抱いて真澄を振り返る。
マヤが口を開くよりも早く、一枚の紙を見せられる。
「君の戸籍謄本だ」
突き出された用紙には、数年前になくなった母と自分の名前が明記されている。
北島春の欄に死亡の二文字を見つけて釘付けになる。
真澄は、その紙を先ほどマヤが記入した紙の上に重ねておく。
更に、取り出した別の戸籍謄本を重ねて置いた。
速水真澄の氏名の下には、『養子』の二文字がある。
彼が何をしようとしているのか訳がわからず、マヤは口を開いた。
3枚の書類が宙を浮く。
窓口へと、真澄の手で出されるその直前に、それは目に飛び込んできた。
マヤが先ほど記入した用紙の左端しに表記された書類の名称、それは……。
『婚姻届』。
マヤが自分の目を疑っている間にも、男性職員がにこやかに婚姻届と二人の戸籍謄本を受理している。
振り返ると真澄は言い放った。
「これで君は俺だけのものだ、マヤ」
「婚姻届って……」
マヤへと、真澄がゆっくりと歩み寄る。
呆然と頼りなげに立ち尽くす細い体を抱き包む。
「君が望んだ俺個人との契約書だ。夢になどさせない。契約は成立した。今この瞬間から君は北島マヤではなく、速水マヤになったんだ。俺の妻だ。言っておくが、離婚には絶対に応じない」
婚姻届を出したばかりだというのに、早くも離婚の話をする真澄が、なんだかおかしくなって笑ってしまう。
なのに、溢れる涙が止まらない。
「私まだ何も言ってませんよ」
顔が寄せられ、唇がマヤの唇に重なる。
そっと離れた唇は囁く。
「愛してる」
どこまでも優しく切なげな眼差しが、マヤの視線を釘付けにする。
「私も、あなたを愛してます」
手を伸ばし、マヤは自ら真澄の首に腕を絡める。
どちらからともなく、唇が重なり合う。

 


二人の婚姻の事実は、一部のもの以外には伏せられた。
鷹通グループとの提携が完全に解消されてより一年。
真澄とマヤは晴れて結婚式を挙げ、夫婦としての歩みをはじめた。






【END】

スポンサーサイト

comment

拍手にコメントを下さりありがとうございます。

06/05 00:30 に拍手のコメント欄にメッセージを下さいました〇〇〇〇〇様へ

読んで下さりありがとうございます。
このお話はわりとシンプルで、私も気に入っています。
終わりよければ全てよし、っていうほどですから、やはり結末は重要ですよね。
どんな結末が好みかは、同じガラかめファンでも分かれるところだと思います。
お一人でも、ぴったりとお好みに合うものであれば、書いている私としてもこれほど喜ばしいことはございません。
絶賛して下さりとても嬉しいです。ありがとうございます。

拍手にコメントを下さりありがとうございます。

08/06 21:37 に拍手のコメント欄にメッセージを下さいました〇〇〇〇〇〇〇様へ

気に入って頂けて私もとても嬉しいです。
決め台詞って色々ありますけど、盛り上がってるシーンの台詞を考えるのは楽しいです。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

14/7/26 にコメントをくださいました○○様

感想をくださりありがとうございます!
「やっぱりこうでないと」と思うところはありますよね~
二次はあくまでも原作あっての作品ですから、ファンの方が望まれる基本的なエンディングは、やはりあまり突飛なものにならず、ある程度予測が付く範囲なのではないかと、一ファンである私も思うところです。
でもあまりそこにばかりこだわると、ネタが思いつかず……。
「温もり~」も読んで下さったのですね。ありがとうございます!
現在はネタ切れ中なので、またなにか思いついたら書きますね。
Secret

一次創作小説サイト様

◇月下の恋姫様 月下の恋姫

ガラかめ二次創作サイト様

◇ミスティ・トワイライト様 ミスティ・トワイライト様 ◇銀紫堂様 銀紫堂様 ◇虹色円盤様 虹色円盤様

リンク

めっちゃ便利♪

らくらくショッピング~ ☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆ *.・。+.・。*.・。+ *.・。+.・。*.・。+ ・。+*.・。+.・。*.・。+.・。 ・。+*.・。+.・。*.・。+.・。 グルメパス ・。+*.・。+.・。*.・。+.・。 どうですか~
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。