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ぼくの天女をつかまえろ 第3話

ぼくの天女をつかまえろ    第3話



予定よりも10分程度短縮して会議を終わらせた真澄は、次なる仕事をこなすために急いで秘書室へと戻ってきた。
そこで意味ありげに微笑む水城と目が合い、真澄はまた一つ弱みを握られそうな嫌な予感を覚える。
「先ほどより、天女様がお待ちになられてますわ」
切れ長の目を大きく見開く。
「まさか、あの子が来ているのか?」
「そのまさか、ですわ」
待っていたといわんばかりに、彼の秘書が一冊のファイルに纏めた契約書類を差し出す。
「スケジュールは調整済みです。ご健闘を祈っておりますわ、社長」
「ああ、これ以上の失態は許されないからな。心して挑むよ」
受け取ったファイルを軽く挙げる。
年甲斐もなく緊張するのを悟られないように、真澄は冷静を装う。
社長室への扉を叩くと、中から返事が返ってくる。
相手を意識しないようにと、己に言い聞かせて真澄は扉を開いた。


「やあ、ちびちゃん。待たせて悪かったな」
親しみを込めた呼び名が、マヤを怒らせることを知っていて、あえて真澄は軽い調子でそう言った。
マヤの反撃はと、様子を窺えばソファーから立って深く頭を垂れていた。
「お忙しいところ突然押しかけてしまってすみません」
期待はずれの彼女の反応と畏まった挨拶に、かえって真澄は身構える。
ソファーに座ると、手にしているファイルを無造作にテーブルにおいた。マヤにも座るように促す。
「いや、水城君からも聞いただろうが、午後から君に会いに行く予定だったから、むしろきてくれて助かったぐらいだ」
マヤは真澄を凝視していた。
どこか憂いを含んだ表情には、少女のあどけなさが消えて、大人びている。
「それならいいんですけど、……速水さん少し痩せました?」
「ああ、痩せたかもしれん。君は調子が悪そうだな」
「そんなことはありません」
暗い雰囲気になるのを避けるために、真澄は再びマヤを挑発する。
「そうか?久しぶりの豆台風の襲撃にしては、やけに静か過ぎて怖いぐらいだ。受付の女子社員も君が大人しいんで体調不良かと心配でもしているんじゃないか?」


マヤはスカートの裾を握り締めて、自分を奮い立たせる。
「からかうのはやめて下さい。私だっていつまでも何も分からない子供じゃありません」
強い口調で睨むと、真澄が早々に降参したように苦笑を浮かべた。
「それもそうだな。紅天女に選ばれた君はもう立派な大人だ。悪かった」
言いながら、彼は胸ポケットから煙草を取り出した。
煙草に火をつけて深く吸い込むと、マヤから顔をそむけて煙を吐く。
煙草を挟む長い指、目を細めて煙を堪能する表情にマヤはうっとりと魅入ってしまう。
そこへ扉がノックされ、マヤは我に返る。
急に恥ずかしさを覚えて俯いた。
入室した水城が、空になったカップを引いていく。無駄のない動きで、湯気を立てた紅茶とミルクを置いていく。
マヤは顔を上げた。
「あ、ありがとうございます……水城さん」
水城は知的な目元で微笑む。
「いいえ、……真澄様は、あなたの味方よ。決して悪いようにはなさらないわ。そうですわよね」


マヤから視線を移した秘書に、真澄は硬い表情のまま頷く。
「もちろんだ。……」
言いにくそうに無言で水城を見やると、真澄にコーヒーを置いた秘書は暗黙の了解に応える。
ソファーの二人に一礼をすると早々に退室した。
水城が部屋を出たことを確かめてから、真澄は暗い表情でマヤを見据える。
「いい機会だから言っておくよ。君のお母さんの事は、今でも後悔している。すまない。謝って許されるとは思っていないが……」


彼が母の墓参りに来てくれていることを知っている。
マヤは真澄が言い終わるのを待っていられなかった。
逸る気持ちが真澄の言葉を遮るように口をついて出てくる。
「もういいんです。母さんのことは速水さんのせいだけじゃないんです。元はといえば、演劇に夢中になって母さんのことを思い出しもせず、連絡も取らなかった私が悪いんです。だからもう、自分を責めないでください」


必死になって語るマヤの言葉が、真澄の心に深く染み込んでいくようだった。
胸が熱くなる。
罪が許されたわけではないが、それでも苦しみが軽くなる。
狂おしいほどマヤを求めながら、別の女性と結婚することに耐え切れず真澄は婚約解消に踏み切った。
だが、マヤの拒絶を恐れて向き合うことを避けていた。
あどけない少女だったマヤが、いつの間にか成長して前向きに生きている。
眩しいほどの輝きを放つ彼女を見ていると、逃げていた臆病な自分が恥ずかしく思えてくる。目の覚める思いで真澄は心から礼を言う。
「ありがとう。君にそう言ってもらえるなんて思わなかったよ。約束する。もう二度と同じ過ちは犯さない。今度こそ君を大切に育てる。だから、もう一度俺にチャンスを与えてくれないか?」


視線が絡み合い、実際には何もされてはいないのだが、真澄の腕が伸びてぎゅっと抱き締められるような錯覚をマヤは覚えた。
頬が熱くなる。恥ずかしさでまともに顔を合わせていられず俯く。
視線の先に、テーブルに置かれたファイルが目に入る。
真澄を待つ間に決意したことを思い出す。
自分を奮い立たせて再び顔を上げる。
「今の私なら、速水さんの役に立てますか?」
おかしなことを聞く、と言いたげに真澄は笑う。
「当然だろ?君はあの幻の名作である『紅天女』の上演権を持つ女優だ。それでなくとも、君は才能ある役者だ。君が舞台に立つだけで、劇場は常に観客で満たされるだろう」
自分を見つめる褐色の瞳が、深い慈しみで満たされている。
マヤは泣きたくなるほどの喜びで見つめ返す。
「だったら、大都芸能ではなく私と個人的な契約をして下さい」





【NEXT】


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