FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Last Message (3)

※2015/11/10 改稿しました。物語の内容は一切変えておりません。体裁と文章を多少修正した程度です。
Last Massage (3)




Last Massage (3)


 深夜。
 大都芸能本社ビルの殆どの照明が落とされていた。
 秘書が帰宅した後も、真澄は書類の山と奮闘していた。
 このまま朝まで続けられそうなほど、真澄は仕事に没頭していた。
 そうすれば何も考えないですむからだ。
 愛しい人との最後の絆まで風前の灯のように消えそうになっている現実から、目を逸らしていられる。いや、逸らしているつもりだった。
 仕事をしながらも、聖から受け取ったマヤの手紙と、謎めいたディスクが、気になって仕方がなかった。
 受け取ってから半日が過ぎていたが、未だどちらも未開封の状態だ。
 真澄はネクタイに指を差し入れて緩め、ワイシャツのボタンも上から二つ外した。
 すっかり冷めたコーヒーを一口飲み、煙草に火をつけた。肺いっぱいに吸い込むと、椅子の背にもたれてゆっくりと紫煙を吐き出す。
 己を落ち着かせると、彼は煙草を灰皿に置いた。
 上着のうちポケットから、白い封筒を取り出す。
 封を切ったその中の手紙にはこう書かれていた。

 紫の薔薇の人へ

 あなたは今まで、どんなときも、私を応援してくださり、励ましてくださいました。
 たくさんのプレゼントに、高校の学費、劇場の修繕。
 私のためにあなたは惜しみない支援をしてくださいました。
 どれほどの感謝をしても足りません。
 紅天女の候補として、ここまで来ることができたのも、全てあなたのおかげです。
 先日は、どうしてもあなたにお会いして、このお礼を直接伝えたかったんです。 
 けれど、それはあなたにとっては迷惑なことでしたね。
 ごめんなさい。
 私はもう、ファンであるあなたに迷惑しかかけられない。
 本当にごめんなさい。
 誰よりも大切なあなただから、私は恩を仇で返すようなことはしたくない。
 お願いです。もう私に二度と薔薇の花を贈らないで下さい。

 北島マヤ  
 
「恩を仇で……どういう意味だ、マヤ?」

 真澄は愕然と手紙を持つ手を震わせた。
 彼の質問に答えてくれる者はいない。
 何度も手紙を読み返した。それでも、彼女の真意は読み取れなかった。
 諦めて机に彼女の手紙を置き、煙草を吸いなおそうと、胸ポケットに手を伸ばす。硬いものに触れて、聖から渡されたディスクを思い出した。
 内ポケットからケースを取り出すと、ディスクのパソコンに挿入し、再生した。
 映し出されたのは、どこかの部屋の一室だった。
 そこへ、スーツ姿の聖が入ってくる。少し遅れて躊躇うように、緊張した面持ちで中に入ってきたのは、マヤだった。
 数日振りに見るマヤを、真澄は食い入るように凝視した。
 部屋の中ほどに聖が立ち、そこへマヤがおずおずとやってくる。

「聖さん、今日は私なんかのために時間を作ってくださってありがとうございます」

「いいえ、マヤ様のためでしたら、おやすいごようです」

 穏やかに聖が返すと、マヤは顔を上げ、落ち着きのない様子で、持っているハンドバッグを開けて何かを取り出した。
 白い封筒だ。

「先にこれをお渡しします。紫の薔薇の人へ届けてください」

「確かに、お受けいたします。本当にこれを最後になさるおつもりですか」

「はい」

 彼女が顔を上げる。
 聖を見上げるマヤの表情が、PCの画面にはっきりと映る。
 聖は受け取った封筒をスーツの内ポケットにしまうと、切り出した。

「マヤ様の私への願いは二つでしたね。一つは、最後の手紙を主人に届けること。もう一つはあなたの主人への想いを昇華すること」
「はい」

 手が届くほど近くに向き合い、マヤは聖を相手に表情を変えていく。恋する乙女の表情に。


「マ、マヤ、何をする気だっ」

 真澄はうろたえ、いてもたってもいられず、立ち上がり、PCのモニターを掴んだ。

「あの日、初めて谷でおまえを見たとき……」

 真澄は、はっとした。
 何度か聞いた事のある台詞は、紅天女の台詞だった。
 危うくモニターを床に叩きつけそうになっていた真澄は、一気に脱力して、椅子に身を投げ出すように座った。
 月影に真澄を相手に阿古夜を演じるように言われたマヤが、一真ではないと、強く否定されたことが思い出されて、真澄は辛くなる。
 
 マヤ、おまえはなぜ、紫のバラの人をそこまで慕う。
 会ったこともない相手だというのに。

「おまえがおばばのいうもう一人の魂の片割れだと……」

 モニターに映し出される映像の中のマヤは、朝露に濡れた花が咲き誇るような笑顔だった。
 恥らうような仕草に、頬を紅潮させ、艶やかなふっくらとした赤い唇からは、恋の喜びが溢れんばかりに紡がれる。
 アルディス王女のときとは違う、可憐さがあった。
 初々しい阿古夜に、真澄の胸はどうしようもないほどに高鳴る。
 同時に、マヤの熱い視線が自分ではない男に向けられていることが、たまらなくなる。
 それでも、マヤから目が離せない。

「阿古夜だけのものになってくだされ……」

 画面の阿古夜の相手役は聖だ。
 彼は一切何もせず、彼女が演技をしている間、ただ、立っているだけだった。
 阿古夜にどれほど求められても応えることはない。
 無反応の聖を相手に阿古夜を精一杯演じたマヤは、その台詞のあと、脆いガラスの仮面を落として素の北島マヤの顔になる。
 輝いていた表情は見る間に歪み、彼女は俯いた。

「ありがとうございました」
「いいえ、座りましょう、落ち着きますよ」

 そう言って、聖は近くのソファーに彼女を促した。
 座ったマヤは、目にハンカチを当ててしばらく泣いていた。
 聖はじっと彼女が泣き止むのを辛抱強く待っていた。
 見ている真澄もただ静かに、その映像を見つめていた。
 やがて、マヤが落ち着く頃合を見計らい、聖が訪ねた。

「お伺いしても宜しいですか?」

 マヤはハンカチを膝に置いて頷いた。

「なぜ、私にこのような役割を思いつかれたのですか? 主人でなくともいいのなら、相手役の桜小路優でもいいのではありませんか?」

 それは真澄も知りたいことだ。
 なぜ相手役の桜小路ではなく、聖なのか。
 真澄はまたもモニターの端を掴んでしまう。
 マヤはもじもじとハンカチを持つ手を見つめた。

「……桜小路君と何度も同じシーンを稽古してきました。でも、できなかった。台詞を口にすると紫の薔薇の人を思い出して、苦しくてできない。だから、……聖さんなら、紫の薔薇の人への私の想いを全てさらけ出せる、そう思ったんです。ずっと誰にも言えなくて、でも、もう押さえていることもできなくなってしまったんです。会いたくて。苦しくて。でも……会ってもらえない」

 最後の一言は搾り出すように、マヤの口から苦しげに吐き出された。

「マヤ様……」

 聖が何か言おうとした。
 けれどそれを遮るように、マヤは顔を上げた。
 泣いて目を赤くし、散々泣いた後だというのに、まだ目を潤ませて、涙を流す。

「分かっています。紫の薔薇の人には、こんな想は迷惑だと分かっているんです。私のことなんて、もうどうでもいいと思っているに違いありません」

「なぜそんなことを……主人は決してあなたをどうでもいいなどと思われません。とてもあなたのことを心配されています。ですから先日も薔薇をお届けするように、私に命じられたのですよ」

「嘘です。あの人が……フィアンセを傷つけた私を速水さんが許すはずないもの」

 マヤは立ち上がってそう叫んだ。
 そして、ハッと我に返ったように慌てて手で口元を覆った。
 何事も冷静沈着な聖が、このときばかりは驚いたように瞠目してマヤを見ていた。
 食い入るように画面を見ていた真澄も、愕然と画面のマヤを凝視する。

 どういうことだ?
 なぜ、マヤが……紫のバラの人が俺だと知っている。

「ご存知だったのですか?」

 マヤは聖の袖を掴み必死で言い募る。

「お願い。聖さん黙っていて、ここでの阿古夜の演技と一緒に忘れてください。お願いします。これ以上、速水さんに嫌われたくないの」
 
 ――速水さんに、嫌われたくないの――
 
 マヤ、もう遅い。

「分かりました。マヤ様、このことは私の胸に留めておきましょう」

 マヤは涙を床に落としながら、深く頭を垂れた。
 そこまで見ていた真澄は、映像がまだ残っているのを知りながら、頭出し再生をした。
 
 
 何度も何度も、繰り返し再生するうちに、背後の夜景がいつしか白み、朝日が真澄の背を照らした。遠くからヒールが床を打つ音が近づいてくる。
 真澄はディスクを取り出しケースに収めると、マヤの手紙と一緒に引き出しにしまった。
 椅子を反転させ目を閉じる。
 燦燦と降り注ぐ朝日の暖かさは、マヤの深い愛情に似ていると、真澄は感じた。
 冷え切った心を優しく包むように温めてくれる。
 満たされた心が喜びに震えている。
 扉を叩く無粋な音が響き、部屋に部下が入ってきた。

「おはようございます、真澄様。やはり徹夜なさったのね」

 真澄は自ら明日への扉を開く。
 棺へと続く真っ黒に染まった未来への扉ではない。
 彼は椅子を反転させると立ち上がった。

「おはよう、水城君。今日もよろしく頼むよ」

 水城が、サングラスの奥で、瞠目した。
 ボスの目の下には隈ができていた。それに反して、彼はすっきりとした顔を秘書に向けて微笑んでいる。



【NEXT】

スポンサーサイト

comment

ぷりん 様へ

拍手にコメントを下さりありがとうございます。
楽しんでいただけて私もとても嬉しいです。
何分引き出しが少ないので、多くは生み出せませんが、その分内容があるものを心がけて書いていきたいと思っています。
また是非是非ご訪問くださいませ。
お待ちしております!!
Secret

一次創作小説サイト様

◇月下の恋姫様 月下の恋姫

ガラかめ二次創作サイト様

◇ミスティ・トワイライト様 ミスティ・トワイライト様 ◇銀紫堂様 銀紫堂様 ◇虹色円盤様 虹色円盤様

リンク

めっちゃ便利♪

らくらくショッピング~ ☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆ *.・。+.・。*.・。+ *.・。+.・。*.・。+ ・。+*.・。+.・。*.・。+.・。 ・。+*.・。+.・。*.・。+.・。 グルメパス ・。+*.・。+.・。*.・。+.・。 どうですか~
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。