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温もりを抱きしめて (10)

温もりを抱きしめて  (10) 



「おかえり、マヤ」
空港に降り立ったマヤを、藤崎涼が笑顔で待っていた。
「藤崎さん……どうして」
帰国予定は出発前から未定だった。連絡もいれておらず、藤崎涼が知るはずがなかったのだ。
「マネージャーから聞いたんだ。荷物もあるだろうから迎えにきた」
そう言って、手を差し出してマヤの荷物を持った。
帰国後は、すぐに自宅マンションに戻り、早々にロサンゼルスへ出国する準備に取り掛かろうと思っていたのだ。
そうしなければ、藤崎涼から離れられないと予感していた。
なのに、そのタイミングをマヤは失い、涼と一緒に彼のマンションへと向かうことになってしまった。
マンションの部屋へ入ると、長旅の疲れが出たのかマヤはソファーに横になったきり、深い眠りに落ちた。

 
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温もりを抱きしめて  (10) 


「おかえり、マヤ」
空港に降り立ったマヤを、藤崎涼が笑顔で待っていた。
「藤崎さん……どうして」
帰国予定は出発前から未定だった。連絡もいれておらず、藤崎涼が知るはずがなかったのだ。
「マネージャーから聞いたんだ。荷物もあるだろうから迎えにきた」
そう言って、手を差し出してマヤの荷物を持った。
帰国後は、すぐに自宅マンションに戻り、早々にロサンゼルスへ出国する準備に取り掛かろうと思っていたのだ。
そうしなければ、藤崎涼から離れられないと予感していた。
なのに、そのタイミングをマヤは失い、涼と一緒に彼のマンションへと向かうことになってしまった。
マンションの部屋へ入ると、長旅の疲れが出たのかマヤはソファーに横になったきり、深い眠りに落ちた。


眠るマヤの耳に、どこかからか水滴の落ちる音が聞こえてくる。
薄く瞼を開くと、涼の顔が見えた。
唇に柔らかな感触が触れる。
「君がいない間に、会社から一方的に契約を破棄されたよ。大都はよほど北島マヤが大切らしい。……マヤ、もう君の返事なんて待っていられない。君は俺のものだ。ロスになんかに行かせない。刺激が欲しいなら、俺が楽園へいざなってやるよ」
細い銀色の針の先端から、透明な液体が零れ落ちるのが見えた。
マヤはハッとして、目を開く。
涼が右手に注射針を持ち、左手でマヤの腕を掴もうとしてくる。
彼が何をしようとしていたのか、そのときのマヤには理解できなかった。
ただ、直感が危険を察知し、マヤはそれに従って逃げた。
涼が、まるで別人のように鬼の形相で何か叫んでいたが、必死で逃げるマヤには何も聞き取れなかった。
考える余裕もなく、靴を履くことも忘れて一目散に玄関を目指してマンションから逃げ出した。
運よく捕まえられたタクシーに乗り込み、目的地も言わずに運転手を急かして車を走らせる。
振り返ると、マンションから飛び出してきた涼が見えた。
さすがに、タクシーに乗ったマヤを追ってはこなかった。
捻った身体を前方に戻すと、マヤはどっと疲れを覚えて溜息と共に力を抜いた。
「お客さん、どこまで行くの?」
人の良さそうな中年男性の運転手が笑顔で尋ねてきた。
マヤはようやく我に返って、財布もハンカチも持ち出せずにバッグごと置いてきてしまったことに気がついた。
辛うじて持ち出せたのは、スカートのポケットに入っている携帯電話だけだった。
マヤは運転手に自宅の住所を告げた。
胸に手を当てると、まだ激しく脈打っていた。
息を整えながら、マヤは両手を顔に当てる。
マンションでの出来事を思い出しながら混乱する思考を整理する。
突然、ポケットの携帯が着信音を鳴らした。
マヤはビクリと震えた。




その部屋の窓からは、都内の夜景が一望できた。
マヤは窓ガラスにもたれると、自分の足元を見下ろした。
汚れた素足に、真新しミュールを履いている。
部屋の開いた扉から、ホテルのベルボーイが入ってくる。
「お客様お荷物はこちらへ運ばせていただきます」
そう言って、いくつもの大きな紙袋や箱を、二人がけのソファーに置いていく。
そして、最後に一通の封筒を、無言でテーブルの上に置いた。
背が高く、端正な顔を長い前髪で隠すようにしている。
変装の上手い彼に、マヤはこれまでどれほど助けられただろう。
マヤは心からの感謝を込めて言葉を紡ぐ。
「何から何まで、本当にありがとうございます。でも、どうか、もう二度と聖さんを使って連絡をなさらないで下さいと、あの方にお伝え下さい。もう甘えたくないんです。」
「承知いたしました。では、ごゆっくりお寛ぎください」
お辞儀をすると、ベルボーイ姿の聖唐人は部屋を出て行った。
閉ざされた扉を見つめた。
「藤崎さん、ごめんなさい」
ロンドンから帰国して、まだ半日しかたっていなかった。
状況の激しい変化に、マヤの心はついていけない。
だが、ゆっくりしている暇もなかった。
聖が運んできた荷物の中には、藤崎涼のマンションに置いてきたはずのスーツケースも手提げバッグも含まれていた。
彼がどうやって取りに行ってくれたのかは想像もできないが、急を要するということだけは理解できた。
バッグの中からパスポート を取り出して、テーブルに置く。
聖が最後に置いていった封筒を手にして中をあらためる。
ロサンゼルス行きの片道航空券が入っている。
マヤは静かに目を閉じて、思い出す。


藤崎涼のマンションから飛び出したマヤは、自宅に戻ろうとしていたタクシーで着信を受けた。
携帯電話の液晶画面を恐る恐る開いてホッとした。
かけてきたのが藤崎涼だったら、何を言われるのかと不安だったからだ。
表示された名前に、マヤは首をかしげた。
「聖さん?」
電話に出ると、一年以上聞くことのなかった懐かしい声が出た。
「突然お電話を差し上げて申し訳ございません。急な事で申し訳ございませんが、今からHホテルにお越し下さい。早急にお伝えせねばならない事がございます」
マヤは戸惑い、自分の姿を確認する。
ニットのカーディガンにワンピース、そこまでは良しとして、素足の先には何も履いていない。
裸足だった。
夢中で走った足は汚れて、怪我までしている。
「今タクシーに乗っていて、自宅に向かっているところです。一度自宅に戻ってから……」
「マヤ様」
電話口から遮るように名を呼ばれて、マヤは言葉を途切らせた。
聖がもう一度名を呼ぶ。
「マヤ様、大変申し訳ないのですが、お時間の猶予がございません。タクシー代はこちらで持たせて頂きますので、ご自宅には戻られずに、そのままHホテルへお越しください。」
聖のどこか緊迫した口調に、マヤはただならぬ気配を感じた。
「分かりました。そこまでおっしゃられるなら向かいます。……でも私……実は靴を履いていなくて……それに手持ちのお金もなくて」
恥ずかしさに声が小さくなる。
「ご心配には及びません。こちらでご用意させて頂きます。お履物のご希望はございますか?」
「今日は水色のワンピースに生成りのカーディガンを着ているのですが、それに合うミュールをお願いします。すみません、我が侭を言って」
「大丈夫ですよ。では、ご用意いたしますので、お越しください」
穏やかな聖の口調に、マヤは幾分安心して通話を終えた。

マヤを乗せたタクシーがホテルの前で横付けがされると、ホテルの入り口で待ち受けていたベルボーイが歩み寄ってきた。
「お支払いはこちらでお願いします」
彼は、タクシーの開いた運転席の窓から運転手にチケットを渡すと、ドアの開いた後部座席を覗き込んだ。
「北島マヤ様。お待ちしておりました。こちらをどうぞご利用下さい」
箱の蓋を開いて靴が差し出された。
マヤは恥じ入りながら、頭を下げて受け取った。
「すみません。ありがとうございます」
箱に入っていたミュールをはいてマヤはタクシーからおりた。
すぐ近くの成田空港から飛行機のエンジン音が聞こえてくる。
この日ロンドンから帰国したときに降り立った空港付近に、マヤは再び来ていた。
聖に促されてホテルに入り、エレベーターで上階へ上がる。
エレベーターに乗っている間、聖は終始無言だった。
紫のバラが送られなくなってから、一年以上経つ。
その間、橋渡し役である聖と会うことも連絡を取ることもなかった。
それがこんな急に、しかも都心から離れた空港付近に呼び出して、何を伝えようとしているのか不安を覚える。
案内された部屋で二人きりになると、聖が口を開いた。
「落ち着いて聞いてください」
緊迫した声に、マヤは無言で頷く。
「今夜はこちらにお泊り下さい。ご自宅に戻られてはなりません。ロサンゼルスへのご予定を早め、明日にでも出国するようにとのあの方の指示です」
それはまるで警察から逃げる犯罪者に協力者が高飛びさせようとする台詞だった。
これは映画か何かの撮影かと一瞬錯覚しそうなほど、聖は真に迫る表情をしていた。
「……え?」
マヤは一度たりとも法に触れるような犯罪を犯したことはないし、聖は役者でもなければ、カメラも回っていない。状況が理解できずに問い返す。
「藤崎涼がまもなく逮捕される、との情報を得たのです」
「そんな……」
マヤは絶句する。
「麻薬所持と使用の容疑がかけられています」
マヤは見開き、先刻目の当たりにした涼を思い出した。
虚ろな表情をした彼の手に、細い注射針があった。
ドラマでよく見るシーンとその時の涼が重なる。
「失礼ですが、マヤ様が裸足で手荷物も持たれていないのは、藤崎涼と何かあったからではありませんか?」
口元に当てた手が震える。聖の話が事実で、涼の手にあったのが麻薬であったのなら、マヤは危うく打たれるところだったのだ。
信じたくはなかった。
聖は質問に応えようとしないマヤにそれ以上追及することはしなかった。
「藤崎涼が逮捕されれば、交際されているあなたにまで確実に影響が及ぶことでしょう。マスコミ対策の為にも、そうなる前に、一刻も早く日本を発つようにとのことです」

恋人である藤崎涼との別れは考えていたし、渡米するつもりもあった。
そう、どちらもおぼろげに考えていたに過ぎない。それを形にするかどうかを決めたのは、ほんの少し前のことだった。
自分でもそれほどあいまいであったことが、知らないうちに未定が予定になり、勝手に確定されている。
思い返せばきっかけは、真澄が突然『温もりを抱きしめて』の撮影現場にやってきた時の事だ。
常に己を律した冷徹な速水真澄が、何かに憑依されたかのようにマヤに迫ってきた。
追い詰められた真澄の目を見たとき、マヤはもうこのままではいられないと思った。
けれど、そう気づいてもどうするべきかは悩み続け、ひとまず連続ドラマ『温もりを抱きしめて』の撮影終了を機に動こうと目処は立てた。
そこへ大都芸能社長秘書の水城から、ロンドン支社で開催されるパーティの話を聞いたのだ。
そのとき既に、マヤの知らないところでは、彼女のイギリス長期滞在の予定が組み込まれ、ロデリック・ハウマン監督の新作に出演することが仮決定されていた。
主演ではなかったが、社長である真澄が作品内容と役柄を熟考した上で北島マヤを推薦していた。
最終決定は本人に任せていた真澄だが、マヤなら引き受けると想定していたようだ。
マヤの初海外撮影に合わせて、ホームステイ先からクランクアップまでに通う語学スクールまで手配済みだったらしい。
そんなきめ細かな配慮を知らずにあっさりと出演を断ったマヤに、パーティの後で裏事情を教えたのはマネージャーだった。
海外進出絶好のチャンスをふいにするマヤに、雪村が思い直すように何度も説得していたが、マヤの気持ちは変わらなかった。
例え国外に出たとしても、その場所が真澄の支配圏内であることには変わらない。
真澄の熱情を知り、忘れようともがくように藤崎涼との関係を深めようとしても、マヤの奥底に燻る思いは消えることがなかった。
自分と真澄を引き寄せようとする目に見えない引力を、マヤは感じずにはいられなかったのだ。
真澄の目が届かないところへ。
もっと遠くへ行かなければ、思慕が真澄を求めてどこまでも伸びていこうとする。
だからマヤは、イギリスではなくアメリカへと方向を変えたのだ。
漠然とした道筋が、ようやく明確に見えてきたところだったのだ。
それがまさか、予想もしない人物から急かされようなどと夢にも思わないことだった。
「速水さんが?」
「はい。速水真澄様のご指示です」
マヤの胸で、ドクドクと鼓動が高鳴る。
急に、視界が暗くなる。
崩れるマヤの身体に、聖がすばやく手を差し伸べた。
聖に抱えられるようにして、マヤはソファーに上半身を横たえた。
「すみません」
「いいえ、帰国されたばかりのマヤ様に無理を強いてしまい申し訳ございません」
「いいえ、聖さんのせいではありませんから。でも、そんな急に言われても無理です。第一、パスポートも鞄も藤崎さんのマンションに置いてきてしまいましたし、……」
「マヤ様、私にお任せください。航空券もこちらで手配いたしますので、ご安心ください。その間に、少しでもお休みください」
聖に頼る以外に、マヤにはどうすることもできなかった。
「よろしくお願いします」

ホテルの部屋に一人残されたマヤは、動くことができずにソファーに横に待ったままだった。
落ち着かず、眠ることはできなかった。
今後のことを考えなければいけない。
そう思うものの、頭の中は真澄のことでいっぱいだった。
今すぐにでも会いに行きたかった。
努力しても、忘れることなどできない。
この先も、どれだけ離れようとも想いが消えることなく、胸の奥深くで鮮やかな紫の花を咲かせ続けるに違いない。
自らの手で引き抜こうとも、またその中から芽を出し茎を伸ばし花開く。
マヤは涙を零しながらそっと瞼を閉じて、両腕で自分自身を抱きしめる。
「速水さん、私にもあなたを守らせて。だからお願い、もう追いかけてこないで」



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comment

ずっと待っていました

本当に続きがよめてうれしいです。
実は、もう読めないのかなってしょぼーんってしていました。
すごい展開でドキドキしています。
本当に、再開してくださってありがとうございます。

06/06にコメントを下さいましたあなた様へ

再開を心待ちにして下さり、誠にありがとうございます!
随分とお待たせしてしまい、申し訳ありません。
この10話は無い知恵を絞ってかなり悩みながら書いたので、そんな風に喜んで頂けて、私も悩んで書いたかいがありました。
最終話、掲載中です。ご期待にそえていると良いのですが……。
宜しければ、またお気軽にご感想などお聞かせくださいませ。
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