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温もりを抱きしめて (5)

温もりを抱きしめて (5)



*性的描写はございませんので安心してお読みいただけます。
 今更ですが、速水さんと紫織さんは夫婦です。
 オリキャラとマヤちゃんの絡みが若干有です。
 基本的にはマス×マヤのハッピーを目指してストーリーを展開していきますが、ご不快に思われる方はお戻りくださいませ。





掌に、温かく柔らかで、滑らかな肌の感触が伝わる。
重ねた唇、繋げた身体。
二つの身体がまるで溶け合うように一つになっていく。
長い長いときをかけて今ようやく愛しい人へと辿り着く。
惹かれていながらどうして今まで離れていることができたのが、不思議にさえ思える。
心が、身体が、喜びに震える。
溢れる涙は知っている。
喜びと同時に訪れるであろう悲劇を。
無常に過ぎる時を止めるすべはない。
確かな温もりと鼓動を感じていられるのはほんの一瞬。
だからこそ幸福の絶頂と同時に絶望の予感に怯えてしまう。
それでも、真澄は愛を貪らずにはいられない。


朝の光が瞼に触れて、真澄は目を覚ました。
振り返ると隣には誰もいない。
いるはずのない面影を追ってシーツに触れても、予想通りの冷たさが手に触れるばかりだ。
身体には、愛おしい人と触れ合った感覚が鮮明に残っているというのに、今はもう何億光年の彼方に引き離されたような孤独さえ感じる。
速水邸の自室のベットの上で、真澄はひとり、額に手を押し当てて漏れそうになる嗚咽を堪えた。
仕度を整えてダイニングルームへと入ると、妻の紫織が入り口で出迎えた。
精彩の欠いた青白い顔をしながらも、蘭のように凛とした美しい微笑を夫に向けた。
「おはようございます、真澄様」
紫織は数日前まで病院に入院していたのだが、治療を放棄して帰宅していた。
結婚して2ヶ月で紫織はうつ病を患ってしまった。
その結果、何度も自殺未遂を繰り返している。
気位の高い紫織は、自身がうつ病を患っていることには、まるで自覚がない。
手首を切って入院しては、病室で心配して付き添う真澄を見ると、彼女は安心した笑顔を見せる。
そして、自身が自殺の動機を忘れてしまうのだ。
自殺を計られる度に、真澄は冷や汗を掻かされ寿命が縮められるような思いをさせられる。
そして、つい先日まで、紫織は手首を切って入院していた。
ただでさえ貧血を起こしやすい体質のところへ、更に血を流すのだから傷の手当だけでは済まず、入院せざるを得なくなる。
真澄はそんな妻にうんざりしていたが、紫織を自殺へと駆り立てている要因が、少なからず自分にあることを自覚していた。
結婚してから、一度も夫婦としての営みをしてはいなかった。
病弱な紫織の身体を労わる振りと、多忙を理由に避け続けていたのだ。
同居している義父から跡取りの話が出れば、養子を取ると一言で済ましてかわしてきた。
渇望するほどに愛する人がいながら、別の女に触れられるほど真澄は器用にはなれなかった。
努力や誠意だけでは、限界があった。
それでも、どうにか仮面夫婦を続けることができたのは、最愛の人を心の奥深くの引き出しに、上手くしまっておくことができていたからだ。
これから先もずっと、感情を殺してしたたかに立ち回れるはずだった。
だが、一週間前のあの夜を境に、真澄の精神状態は崩壊を始めている。
妻の顔をまともに見られなくなっていた。
「おはよう」
口先だけで挨拶を返すと席につく。
南向きの庭に面したガラス戸から、燦燦と朝日が降り注ぎ、食堂は照明をつけるまでもなく、光に満ちていた。
けれども、その部屋が賑わうことは決してない。
交される会話は常に事務的で、必要以上に話は発展しない。
真澄は出された食事には手をつけず、コーヒーだけを飲むと早々に席を立った。
紫織が、出勤しようとする夫を呼び止める。
「真澄様」
週刊誌を開いて真澄に差し出してきた。
真澄の目に大きな見出しが飛び込んでくる。
『北島マヤ、路上キス、交際順調』
己の意志とは関係なく、目が勝手に掲載されているモノクロの写真を見る。
身長差のある男女が、抱き合って唇を重ねている写真だった。
北島マヤと藤咲涼だ。
「『温もりを抱きしめて』の視聴率は好調のようですわね。お父様もとても喜んでらしたわ」
『温もりを抱きしめて』とは、北島マヤと藤咲涼が共演しているドラマ名だ。
五日前に、報道陣を前に二人は交際宣言をした。
事務所も認める交際に、当初はやらせではないかという憶測が飛んだ。
事務所側もそのつもりであったのだが、当の本人たちはそれを逆手に取るように短期間の間に急接近して関係を深めていることが、両マネージャーの報告で真澄の耳にも届いている。
共演者との交際にあれほど不満を漏らしていたマヤだったが、真澄が社長室に呼び出した2日後には、態度を一変させていたのだ。
真澄と過した濃密な夜のことなどまるでなかったかのように、藤咲涼との交際を認めた。
マヤのマンションで会って以来、真澄は彼女とは会っていなかった。
マヤの部屋に携帯電話の番号をメモして残したが、彼女からかけてくることもなかった。
週刊誌から視線を離すと、閉じてそれをテーブルの上に置いた。
腸が煮えくり返りそうな怒りを、真澄は作り上げた無表情の仮面の下に完璧に隠す。
「ご期待に添えて何よりです。……では、仕事がありますので、いってきます」
笑顔を作れぬまでも、紫織に冷めた態度を示すことで真澄は己の矜持を貫いた。 
紫織は試しているのだ、真澄が本心を曝け出すのを。
藤咲涼とマヤの交際の発端は、正確には中央テレビ上層部からの圧力によるものだった。
紫織の父親は、中央テレビの社長だ。
真澄には紫織が裏で暗躍していないとは思えなかった。
結婚前から、紫織にはマヤのファンである紫のバラのひとの正体が自分であることが知られていた。
そして紫織が伊豆の別荘からマヤの舞台アルバムや高校の卒業証書を持ち出して、無残に引き裂いた張本人であることは、聖唐人の調べで証明されていた。
勘の鋭い紫織に、真澄の心が常にマヤへと向かっていることを見抜かれていた。
婚約者であったとはいえ、無断でひとの物を持ち出して感情のままに写真を引き裂いたことを思えば、追い詰められると紫織が何をしでかすのかと真澄は恐ろしくなった。
嫉妬の矛先がマヤに向かうことを、真澄は何よりも恐れ、必要以上にマヤと関わることを避けてきた。
真澄は紅天女に惜しくも選ばれることのなかったマヤの女優としての将来を案じ、真っ先にマヤとの契約を持ち上げた。
マヤが芸能界に復帰して、ようやく軌道に乗り出した矢先に、中央テレビからの圧力がかかったのだ。
二度と過去の過ちを繰り返さぬように、今度こそ大切に大女優への道を歩かせたかった。
それを紫織の瑣末な嫉妬などで、邪魔されたくはなかった。
ゆえに、ドラマの番宣の為だけの交際を真澄は認めた。
ずっと仲の良かった桜小路との関係が進展しなかったように、藤咲涼との関係もドラマが終われば自然に消えるだろうと、自分を納得させた。
そして、真澄は酔っていたとはいえマヤから夢のような愛の告白を受けたのだ、「愛しています」と。
求めてきたのはマヤだ。
めくるめく愛の囁きを、あの甘く切く、狂おしい夜を、どうして忘れることができるのだろう。
真澄にはできない。
愛のない妻の顔を見ることさえ疎ましくなるほどに。


迎えに来た社用車の後部座席に乗り込んだ真澄は、シートに深くもたれると息を吐いた。
無意識のうちに入りすぎていた力が抜けていく。
左手の薬指に嵌められた指輪が、重く感じられた。
たかが指輪一つ、たかが紙切れ一枚に、真澄は手も足も雁字搦めにされている。
今に、窒息して死んでしまいそうな気さえしてくる。
たった一度の温もりが無性に恋しい。




鍵を開けて玄関の扉を開くと、マヤは左頬をさすりながら家の中へと入った。
「おかえり」
LDKのキッチンから、エプロン姿の藤咲涼がフライパンを片手に顔を出した。
彼の陽気な笑顔に、マヤは疲れたように溜息をついて靴を脱いだ。
「アパートの管理人が緊急時でもないのに勝手に契約者の部屋に上がりこむなんて、れっきとした違法行為だと思うけど」
「固いこと言うなよ。俺たち恋人だろ」
「それはあなたと会社のみんなが勝手に思ってることだわ……」
そこまで言うと、マヤは左の頬に手をあてて、自虐的な笑みを浮かべた。
「いいえ、それも今日でおしまいね。あのひとの奥さん、いきなり会社に来るんだもの。びっくりしちゃうわよね。その上私を見つけるなり皆の前で殴るなんて……明日からどんな顔で出社したらいいのかな」
フライパンをコンロに戻した涼が、マヤを包み込むように抱き寄せる。
豊かな黒髪を優しく撫でて言う。
「会社なんてやめればいい。俺と結婚しよ。大事にするから」
「あなたを愛せない。それでもいい?」
救いを求めるように涼を見上げる。
彼は苦しげな表情で言う。
「それでも構わない」
マヤは聞いておきながら首を横に振る。
顔を伏せて涼の胸を押すと、その腕から逃れた。
「良いわけない。傷つけるって分かっててあなたと一緒になんて都合のいいことできない」
逃すまいと、涼が長い腕を伸ばして今度は強くマヤを腕に閉じ込めるように抱き締める。
「傷つけろよ。俺はおまえと一緒にいられるなら構わない」
「馬鹿よ。……どうしようもない馬鹿だわ」
涼が、マヤの髪に頬を寄せる。
「馬鹿はお互い様だろ?」
しばらく無言で抱き合っていると、やがて声がかけられる
「カット」
「はい、お疲れ様です」
監督とスタッフの声がかかると、急に周囲は騒がしくなる。
「お疲れ様です、藤咲さん」
素に戻ったマヤが挨拶をして離れようとしたが、涼が離そうとしない。
整った甘い美貌で見下ろしてくる。
「俺、後ワンシーン残ってるんだ。早く終わらせるから、待ってて。ごはん食べに行こ」
スタッフたちの好奇な視線と、近すぎる涼の距離に、マヤの頬は恥ずかしさで熱くなる。
「分かりました。待ってます」
早口でそういうと、解かれた腕からすぐさま離れる。
「照れなくてもいいのに、可愛いな、マヤは」
五歳年上の藤咲涼が、楽屋へと逃げていくマヤの背を楽しげに眺めていた。


演技上で愛を語ったり、抱き合ったりすることに抵抗はない。仕事と思えば割り切ってできる。
けれども、素のマヤはまだまだ奥手で慣れることはできない。それが人前ならなおさらのことだった。
「この後藤咲君を待つの?」
マネージャーの雪村がマヤを追いかけて聞いてきた。
「そうですよ、今日の撮影が終わればこの後はオフでしょ?」
雪村は渋面になって釘を刺す。
「明日の撮影は早いから、今日は遅くならないうちに帰ってね」
「6時からの撮影ですよね。分かってます。ご飯食べたら帰ります」
「絶対よ」
「絶対に」
マヤは真顔で断言する。そうしなければ、雪村が安心して先に帰れないからだ。
もう子供ではないというのに、こうやって心配される自分は、やはり信用されていないのだとマヤは落胆する。だがそれも仕方がないのだとすぐに思いなおす。
雪村と別れて一人宛がわれた楽屋へと入ると、マヤはすぐ近くの椅子に座ってカウンターにうな垂れた。
刹那、背後に人の気配を感じて顔を上げる。
目の前の鏡にマヤが最も会いたくないその人が、すぐ隣に映っていた。
「やあ、ちびちゃん、お疲れ様。撮影は順調なようだな」
おどけた口調で、真澄がそう言った。




【NEXT】






1月17日付けでほんの少し加筆修正いたしました。
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