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ぼくの天女をつかまえろ 第1話

 漫画『ガラスの仮面』の二次小説

【注】
 この作品は、『マッスル真澄のマヤちゃんをいっしょうけんめい祝う会』の企画に出展させていただいた作品です。
 

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ぼくの天女をつかまえろ 第2話

ぼくの天女をつかまえろ    第2話



社長室で真澄を待つ間、マヤはエレベーターでの水城との会話を思い出していた。
目の前に用意されたミルクティーとケーキを口にするが、まるで味がしない。
持参してきた封筒を、膝に乗せて見つめる。
封筒の『大都芸能』の文字にそっと触れる。
『会社のための結婚』。
浮かんできた言葉は、マヤに記憶を遡らせる。


それは、『狼少女ジェーン』を演じる前の出来事。
姫川亜弓と共演した『ふたりの王女』の後、マヤは次に立つ舞台を決めかねていた。そんなある日のことだった。
マヤのもとに一通の封筒が届いた。
差出人無記名の封筒には、『アンナ・カレーニナ』の舞台チケットが入っていた。
舞台に惹かれて行ってみれば、そこに真澄がやってきた。
真剣な頼みに、マヤは渋々その日真澄と付き合うことになった。
舞台鑑賞のあとは、ケーキを食べてプラネタリウムを見て、神社のお祭りにも行った。
いつもと違う真澄に出会うたび、マヤは戸惑いを覚えた。
その日の最後に、二人はレストランへと食事にやってきた。
からかう真澄の調子はいつもと同じなのに、
時折見せる寂しげな瞳が、マヤは気になって仕方がない。 


「どうした?さっきから黙りこくって。……俺と一緒ではつまらないか?」
「いいえ」
マヤは首を横に振る。
「それならいい……」
真澄が煙草に火をつけて、表情を緩めた。
「今日は付き合ってくれてありがとう」
「いいえ。……あの……その」
言うか言うまいか、マヤは迷う。
「なんだ?言いたいことがあるならはっきり言ってくれ」
マヤは顔を上げて真澄を見た。
「プラネタリウムの上映の後で、速水さん言いましたよね。『思い出に付き合ってくれてありがとう』って」
「ああ」
「速水さんだったら、私じゃなくたって他にも一緒に行ってくれる人がいるでしょう?なのに……今日はどうして私なんかを誘ったんですか?」
「気分転換さ。君といると仕事のことも、降って湧いてきた見合いのことも考えずに済む。じつに楽しく時間を過ごせる」
軽い調子でそう言った真澄の台詞に、マヤは食いついた。
「速水さんお見合いするんですか?」
「ああ、義父の勧めでな。大手企業グループのご令嬢だ。俺としてはいつまでも独身でいたいんだが、この年になると、そうも言ってはいられなくなったというわけだ。ま、これも大都を大きくするためだ」
「会社のために好きでもない人と結婚するんですか?」
信じられない、といわんばかりにマヤは非難の目を向けた。
「それが政略結婚というものだよ。ちびちゃん」
いつものように揶揄が飛べば返す台詞は決まっている。
「やっぱりあなたは冷血仕事虫だわ」


真澄は喧嘩に発展させず、ポーカーフェイスで切り返してきた。
「そこまで言うなら、協力してくれ。俺にまともな愛情の通った結婚をさせてくれないか?」
「え?私の協力ですか?」
「そうだ」
挑発するような笑みで、真澄はじっとマヤを見つめた。
「君が、俺の恋人になるんだ。恋人がいれば、他の女性と見合いをする必要もなくなる」
驚きのあまりマヤは絶句した。
真澄が席を離れ、彼女の横に立つ。
屈んだかと思うと、マヤの頬にさっと唇を押し当ててすぐに離れる。
マヤは飛び上がらんばかりにビクリと体を震わせた。
瞬時に頬から首へと熱くなるのが自分でも分かった。
きっと茹蛸のように真っ赤になっていることだろうと、自覚するほどだった。
それをいかにも楽しげに、真澄が肩を震わせて堪えるように笑っている。
その笑いにハッと気がついてして、マヤは大きく息を吸った。
すかさず我に返った真澄が、周囲を気遣ってマヤの口に手を当ててくる。
「後にしろ、他の客の迷惑になる。ほら立て。置いていくぞ」
促されてマヤも周囲の客たちを見回す。
大きな手を払って睨むと、真澄を横切ってさっさと店を出た。
 

真澄が支払いを済ませる間、マヤはエレベーター前で待っていた。
むっつりと怒って頭を下げる。
「ご馳走様でした。もう二度と誘わないで下さい」
真澄は静かに歩み寄ると、マヤの隣に立つ。
そこへエレベーターが到着した。
誰も乗っていないその箱に入ると、真澄が指先でボタン操作をする。
エレベーターの扉が閉じて動き出すと、真澄は独り言のように呟いた。
「からかったわけじゃない。俺は君のことが気に入っている。だが君は俺を憎んでいるだろ?無理に俺に付き合わせるつもりはないさ。今日のことは忘れてくれ。俺も忘れる。もう二度と君を誘わない」
突き刺すような強い視線で、マヤは真澄の背を睨んだ。
劇団を潰されたことや、母の死のことを思い出す。
「ええ、そうしてください。あなたは私の敵なんですから」
 

あれから歳月は流れ、マヤは紅天女への試演のチケットを手に入れた。
そして亜弓と競ってその役を勝ち取ったのだ。
その間に、真澄への思いに気づき、どれほどあの日の台詞を後悔したことか知れない。紫織と婚約し、幸せそうに寄り添う姿を見るのは、身を切られるように辛かった。
どうしてあの時、真澄の申し入れを受け入れなかったのか。
そうすれば彼の傍にいるのは、紫織ではなく自分であったはず。
何度も自分を責めた。
恋の苦しみにもがき傷つき、諦めようと自分に言い聞かせてきた。
苦しみながら掴んだ紅天女の試演で、真澄への思いを昇華させた。
そんな彼女にとって、真澄の婚約解消はまさに晴天の霹靂だった。
週刊誌で婚約破棄の記事を読み、
マヤの胸に去来するのは真澄の不幸を憂う気持ちよりも、失ったはずの恋心だった。
以来、淡い期待が胸に燻り続けている。
浅ましいと自分を罵りつつも、再び火を灯した恋心は止められない。
会いたい。
気持ちは日々膨らむ。
けれども、踏み切れなかったのは、仕事上とはいえ真澄自身が会いに来てくれなかったからだ。
その不安は麗の言葉ですっかり消えた。
マヤは膝の上の封筒を横に置くと、ティーカップを手に、冷めたミルクティーを渇いた喉に流し込んだ。





【NEXT】


ぼくの天女をつかまえろ 第3話

ぼくの天女をつかまえろ    第3話



予定よりも10分程度短縮して会議を終わらせた真澄は、次なる仕事をこなすために急いで秘書室へと戻ってきた。
そこで意味ありげに微笑む水城と目が合い、真澄はまた一つ弱みを握られそうな嫌な予感を覚える。
「先ほどより、天女様がお待ちになられてますわ」
切れ長の目を大きく見開く。
「まさか、あの子が来ているのか?」
「そのまさか、ですわ」
待っていたといわんばかりに、彼の秘書が一冊のファイルに纏めた契約書類を差し出す。
「スケジュールは調整済みです。ご健闘を祈っておりますわ、社長」
「ああ、これ以上の失態は許されないからな。心して挑むよ」
受け取ったファイルを軽く挙げる。
年甲斐もなく緊張するのを悟られないように、真澄は冷静を装う。
社長室への扉を叩くと、中から返事が返ってくる。
相手を意識しないようにと、己に言い聞かせて真澄は扉を開いた。


「やあ、ちびちゃん。待たせて悪かったな」
親しみを込めた呼び名が、マヤを怒らせることを知っていて、あえて真澄は軽い調子でそう言った。
マヤの反撃はと、様子を窺えばソファーから立って深く頭を垂れていた。
「お忙しいところ突然押しかけてしまってすみません」
期待はずれの彼女の反応と畏まった挨拶に、かえって真澄は身構える。
ソファーに座ると、手にしているファイルを無造作にテーブルにおいた。マヤにも座るように促す。
「いや、水城君からも聞いただろうが、午後から君に会いに行く予定だったから、むしろきてくれて助かったぐらいだ」
マヤは真澄を凝視していた。
どこか憂いを含んだ表情には、少女のあどけなさが消えて、大人びている。
「それならいいんですけど、……速水さん少し痩せました?」
「ああ、痩せたかもしれん。君は調子が悪そうだな」
「そんなことはありません」
暗い雰囲気になるのを避けるために、真澄は再びマヤを挑発する。
「そうか?久しぶりの豆台風の襲撃にしては、やけに静か過ぎて怖いぐらいだ。受付の女子社員も君が大人しいんで体調不良かと心配でもしているんじゃないか?」


マヤはスカートの裾を握り締めて、自分を奮い立たせる。
「からかうのはやめて下さい。私だっていつまでも何も分からない子供じゃありません」
強い口調で睨むと、真澄が早々に降参したように苦笑を浮かべた。
「それもそうだな。紅天女に選ばれた君はもう立派な大人だ。悪かった」
言いながら、彼は胸ポケットから煙草を取り出した。
煙草に火をつけて深く吸い込むと、マヤから顔をそむけて煙を吐く。
煙草を挟む長い指、目を細めて煙を堪能する表情にマヤはうっとりと魅入ってしまう。
そこへ扉がノックされ、マヤは我に返る。
急に恥ずかしさを覚えて俯いた。
入室した水城が、空になったカップを引いていく。無駄のない動きで、湯気を立てた紅茶とミルクを置いていく。
マヤは顔を上げた。
「あ、ありがとうございます……水城さん」
水城は知的な目元で微笑む。
「いいえ、……真澄様は、あなたの味方よ。決して悪いようにはなさらないわ。そうですわよね」


マヤから視線を移した秘書に、真澄は硬い表情のまま頷く。
「もちろんだ。……」
言いにくそうに無言で水城を見やると、真澄にコーヒーを置いた秘書は暗黙の了解に応える。
ソファーの二人に一礼をすると早々に退室した。
水城が部屋を出たことを確かめてから、真澄は暗い表情でマヤを見据える。
「いい機会だから言っておくよ。君のお母さんの事は、今でも後悔している。すまない。謝って許されるとは思っていないが……」


彼が母の墓参りに来てくれていることを知っている。
マヤは真澄が言い終わるのを待っていられなかった。
逸る気持ちが真澄の言葉を遮るように口をついて出てくる。
「もういいんです。母さんのことは速水さんのせいだけじゃないんです。元はといえば、演劇に夢中になって母さんのことを思い出しもせず、連絡も取らなかった私が悪いんです。だからもう、自分を責めないでください」


必死になって語るマヤの言葉が、真澄の心に深く染み込んでいくようだった。
胸が熱くなる。
罪が許されたわけではないが、それでも苦しみが軽くなる。
狂おしいほどマヤを求めながら、別の女性と結婚することに耐え切れず真澄は婚約解消に踏み切った。
だが、マヤの拒絶を恐れて向き合うことを避けていた。
あどけない少女だったマヤが、いつの間にか成長して前向きに生きている。
眩しいほどの輝きを放つ彼女を見ていると、逃げていた臆病な自分が恥ずかしく思えてくる。目の覚める思いで真澄は心から礼を言う。
「ありがとう。君にそう言ってもらえるなんて思わなかったよ。約束する。もう二度と同じ過ちは犯さない。今度こそ君を大切に育てる。だから、もう一度俺にチャンスを与えてくれないか?」


視線が絡み合い、実際には何もされてはいないのだが、真澄の腕が伸びてぎゅっと抱き締められるような錯覚をマヤは覚えた。
頬が熱くなる。恥ずかしさでまともに顔を合わせていられず俯く。
視線の先に、テーブルに置かれたファイルが目に入る。
真澄を待つ間に決意したことを思い出す。
自分を奮い立たせて再び顔を上げる。
「今の私なら、速水さんの役に立てますか?」
おかしなことを聞く、と言いたげに真澄は笑う。
「当然だろ?君はあの幻の名作である『紅天女』の上演権を持つ女優だ。それでなくとも、君は才能ある役者だ。君が舞台に立つだけで、劇場は常に観客で満たされるだろう」
自分を見つめる褐色の瞳が、深い慈しみで満たされている。
マヤは泣きたくなるほどの喜びで見つめ返す。
「だったら、大都芸能ではなく私と個人的な契約をして下さい」





【NEXT】


ぼくの天女をつかまえろ 第4話

ぼくの天女をつかまえろ    第4話




「だったら、大都芸能ではなく、私と個人的な契約をして下さい」

 
すぐにマヤの台詞が理解できなかった。
突拍子もなくわけの分からないことを言い出すのがマヤだ。またか、と思いつつ耳を傾ける。
「紫織さんのように美人でも名家のお嬢様でもないけれど、私、あなたのためなら何度でも舞台に立ちます。結婚相手は会社のためになる女性を選ぶのでしょ。だったら次は私を選んで下さい。……私を選んでくれるのなら、『紅天女』の上演権をあなたに譲っても構わない」
今言わなければ二度と言えないと思った。
玉砕覚悟で、秘めていた思いの全てをぶつけた後は、まるで素っ裸にされたような気分だった。
なのに、真澄は応えてくれない。
間の抜けた顔で、ぽかんと口を開けている。
視界がにじむ。
きっと大笑いされる。そう思った瞬間、真澄の指から煙草が落ちた。


真澄ははっとして、絨毯に落とすまいと慌てて手で受け止める。
火口が掌に当たり短く呻いて顔をしかめる。
結局煙草を絨毯に落としてしまった。
すぐに拾ったものの、僅かに焦げてしまう。
目を光らせた水城の顔が脳裏に浮かぶ。
「速水さん、大丈夫?」
マヤが駆け寄ってきて、真澄の手を取った。
掌のくぼみに小さいが赤くなっているところがある。
「大変。私、応急箱借りてきますから、待っていて下さい」
真澄が止める間もなくマヤは社長室を飛び出した。
一人部屋に取り残された真澄は、先ほどまでマヤが座っていた場所を見つめ、ゆっくりと彼女の台詞を一つ一つ噛締めるように思い出す。
それが夢でも妄想でもないのだと信じることができたとき、真澄は立ち上がった。
例えそれが気まぐれであろうと、戯言であると、からかいであったとしても構わない。
撤回など決して受付はしない。
一刻の猶予もない。
真澄は走った。




秘書室では、慌しくマヤが水城から応急箱と、薄手のハンカチで包んだ保冷剤を受け取っていた。
そこへ真澄が血相を変えて社長室から飛び出してきた。
「真澄様?」
「どうしたんですか?」
水城とマヤが声をそろえて怪訝な顔で問う。
その質問を無視して、真澄は保冷剤を持つマヤの手首捕まえた。
「おいで」
「え?」と、きょとんとするマヤを強引に廊下へと連れて行く。
その背に、すかさず水城が声をかける。
「どちらに、いつお戻りになられますの?」
「今日はもう戻らない。悪いが退社させてもらうよ。どうせもともと午後のスケジュールはあけてあったんだ」
廊下へと向かいながら口早に伝える。
急ぐ背中に秘書は問答無用の冷徹な声を上げた。
「社長、生憎ですが空けてあった午後には、繰り下げた会議を入れさせていただきました」
遅くとも夕方6時には帰社をお願いいたします。会議が終了次第……」
やれやれと、真澄は溜息をついて振り返る。
「もういい。わかった。戻ればいいんだろ。6時だな。時間通りに戻るから、それまでは連絡してくるなよ」
水城は微笑みを湛えて一礼する。
「承知いたしました。いってらっしゃいませ」



役員用のエレベーターは、他の階に止まることなく、地下駐車場を目指して降下する。
閉ざされた扉を凝視したままの真澄に、マヤは困惑して声を上げる。
「速水さん、一体どうしたんですか?」
「頼むから、何も言わず一緒に来てくれ」
振り向かずにそういう真澄の顔は、怖いほど真剣だった。
張り詰めた彼にそれ以上何も言えず、黙って従うことにした。
右手が冷たいことに気づき、保冷剤を持ったままだったことを思い出す。
真澄の手も、マヤの右手首を掴んだままだった。
無言で横顔を見上げたが、放してくれそうにない。
放されたいとも思わない。
右手はそのままに、真澄のやけどしたであろう手を案じる。
応急箱は置いてきてしまったが、せめて冷やすだけでも、そう思い下ろされている手を取る。
大きな手に触れた瞬間、真澄が驚いてマヤを見下ろす。
睨むような視線に、マヤは悲しくなってくる。
すぐに視線を落として彼の手に保冷剤を当てる。
「冷やすだけです。そんな顔しないでください」


暗い声でそう言う彼女を、真澄は歯がゆい思いで見下ろしていた。
今すぐ抱き締めたい。
どこへも逃げられないように縛り付けて唇を奪って……
瞬く間に妄想が広がりかけて、真澄は己を制止する。
エレベーターが地下へ到着した。
それ以上、狭い密室で二人きりでいれば、欲望を抑えきれたかどうが怪しいところだ。
大人しくついてくるマヤを、停めてある自家用車の助手席に乗せる。
シートベルトで彼女を拘束すると、すぐに運転席に自らも乗り込む。
慣れた動作で車を発進させた。




車に乗ること十数分。目的の場所へとやってくる。
車から降りたマヤは目の前の簡素な建物を眺めて首を傾げる。
「おいで」
滑り込ませるようにして手を握られる。
真澄に連れられて建物の中へと入った。
殺風景なフロアには、透明なついたてで区切られたカウンターに、用途別の受付が設けられている。
その奥には所狭しと机が並び、各々の机は書類やファイルが積み上げられている。
マヤが殺伐とした様子を眺めている間、真澄はいつの間にか彼女の手を離して、受付で何やら用紙を受け取っていた。
離れた場所に設置されているカウンターへ行く。
受け取ったばかりの用紙に記入を始めた。
マヤは彼の傍へ行き、何を書いているのかと覗き込む。
見慣れた文字は、やはり紫の薔薇に添えられたメッセージカードに記入されている文字と同一のものだった。
切なさが込み上げてくる。


真澄はジャケットの内ポケットから印鑑ケースを取り出し、中身を出して捺印を済ませる。
インクも乾かぬうちに、必要事項を埋めた用紙と万年筆をマヤの目の前に置く。
用紙の空欄に指を差す。
「ここに記入をしてくれ、君自身のことを書くだけだ。急ぐ必要はないが、間違えるなよ」
「分かりました」
促されるままに用意された万年筆を持つ。
緊張しながら真澄の氏名の横に自分の氏名と住所を記入していく。
記入している間に、真澄は印鑑を内ポケットに戻していた。
その手で、上着の別のポケットに手を入れ、小さな細長いケースを取り出す。
中を開け、納められている印鑑を取り出す。
マヤが記入を終えるとすぐに、彼女の手を取り印鑑を渡す。
「使うといい。君の手荷物は会社においてきてしまった。
それは、水城君がいつでも君と契約ができるようにと用意しておいてくれたものだ。こんなところで役に立つとは思わなかったよ」
マヤは棒状の先端に刻まれた名を確かめる。
彼女の苗字に間違いはない。
「ありがとうございます」
用意周到な彼に感心しながら、訝しむことなくマヤは素直に礼を言った。内心で彼がほくそ笑んでいるとも知らずに。


一通りの記入と捺印を済ませると、記入漏れがないかを確かめる。
右側のみに記入したマヤは、左側を見た。
証人と書かれた下に、水城と聖の名前を見つけた。二人の氏名の後には、それぞれに捺印もされている。
もらったばかりの用紙に、なぜ他人の印鑑が押されているのだろう、と疑問を抱いて真澄を振り返る。
マヤが口を開くよりも早く、一枚の紙を見せられる。
「君の戸籍謄本だ」
突き出された用紙には、数年前になくなった母と自分の名前が明記されている。
北島春の欄に死亡の二文字を見つけて釘付けになる。
真澄は、その紙を先ほどマヤが記入した紙の上に重ねておく。
更に、取り出した別の戸籍謄本を重ねて置いた。
速水真澄の氏名の下には、『養子』の二文字がある。
彼が何をしようとしているのか訳がわからず、マヤは口を開いた。
3枚の書類が宙を浮く。
窓口へと、真澄の手で出されるその直前に、それは目に飛び込んできた。
マヤが先ほど記入した用紙の左端しに表記された書類の名称、それは……。
『婚姻届』。
マヤが自分の目を疑っている間にも、男性職員がにこやかに婚姻届と二人の戸籍謄本を受理している。
振り返ると真澄は言い放った。
「これで君は俺だけのものだ、マヤ」
「婚姻届って……」
マヤへと、真澄がゆっくりと歩み寄る。
呆然と頼りなげに立ち尽くす細い体を抱き包む。
「君が望んだ俺個人との契約書だ。夢になどさせない。契約は成立した。今この瞬間から君は北島マヤではなく、速水マヤになったんだ。俺の妻だ。言っておくが、離婚には絶対に応じない」
婚姻届を出したばかりだというのに、早くも離婚の話をする真澄が、なんだかおかしくなって笑ってしまう。
なのに、溢れる涙が止まらない。
「私まだ何も言ってませんよ」
顔が寄せられ、唇がマヤの唇に重なる。
そっと離れた唇は囁く。
「愛してる」
どこまでも優しく切なげな眼差しが、マヤの視線を釘付けにする。
「私も、あなたを愛してます」
手を伸ばし、マヤは自ら真澄の首に腕を絡める。
どちらからともなく、唇が重なり合う。

 


二人の婚姻の事実は、一部のもの以外には伏せられた。
鷹通グループとの提携が完全に解消されてより一年。
真澄とマヤは晴れて結婚式を挙げ、夫婦としての歩みをはじめた。






【END】

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